茨城大学と茨城県地域気候変動適応センターは、同センターによる初めての報告書として、「茨城県における気候変動影響と適応策―水稲への影響―」と題した冊子をこのほど発行しました。
茨城県地域気候変動適応センターは、茨城大学が事業者を務め、気候変動の影響予測の情報提供や自治体の気候変動適応計画の策定支援などを行っています。2018年に制定・施行された気候変動適応法に基づき、全国で初めて大学を事業者とする地域気候変動適応センターとして2019年4月1日に設置されました。
気候変動の影響は多岐にわたりますが、本報告書では水稲への影響と適応策に焦点を絞り、最新の予測データや予想される気候の変化に適応して持続的に生産を行うための考え方について、一般向けのわかりやすい言葉で紹介しています。茨城大学、茨城県・茨城県農業総合センターの関係者のほか、農研機構の研究者も執筆者に名を連ねています。研究の実施にあたっては文部科学省「気候変動適応技術社会実装プログラム」(略称:SI-CAT)の一部助成を受けています。
報告書では気候変動への適応策の考え方と大学や県の動きを概説した上で、まずは茨城県の水稲生産の現状と今後の影響予測について解説。今後極端な降水量が増加することや、気候のシミュレーションモデルとそのバイアス補正方法によっては、茨城県の気温上昇の予測値が日本全体と比べて高くなる可能性も示されている中、茨城県全域では近い将来までに水稲の収量が大きく減る地域は予測されていない一方、白濁した白未熟粒の増加といった品質の低下が既に多く発生しているとしています。
そうした状況に対し、報告書では、直近の対応として「近年でも既に顕在化している品質低下の回避を重視しつつ収量を維持するための適応策が有効」と述べるほか、茨城県が2003年から呼びかけてきた「基本技術の励行」の有効性を強調しています。一方、「白未熟粒の発生を抑えるためには、0.5度/10年のスピードで高温耐性品種を開発・導入していくべき」といった具体的な指標も示し、移植日の変更、スマート農業科、新品種の開発及び導入といった具体的な適応策ごとの時間・コスト・効果を踏まえて、中長期的な適応戦略を立て、生産者・行政・研究者・企業等が連携した取り組みを進めるべきだとしています。
同センターのセンター長を務める茨城大学大学院理工学研究科の横木裕宗教授は、「大学として気候変動の適応策に関する様々な研究分野の研究の蓄積があったため、全国の地域気候変動適応センターの中でもいち早く報告書を出すことができた。水稲生産への影響予測は、農業県の茨城にあって最も関心が高い情報の一つだ。本報告書が、各生産者における持続的な農業の見通しや自治体による支援策の一助となれば」と話しています。
本報告書は、茨城県内の自治体の環境関係部局などに配布するほか、茨城大学のホームページなどでデータ版(PDFファイル)を閲覧できます。