沿岸域の海洋環境のプロセスを解明することでどのようなことが期待されるのか、増永助教にインタビューを行いました。(内容は2021年3月時点のものです)


―研究分野に興味を持ったきっかけを教えてください。

大学学部低学年の頃は、海洋生物や生態系に興味があったのですが、大気や海洋を中心に「物理」を深く勉強していくうちに、私たちが生きている宇宙、地球そして生活圏も全てが物理現象によって支配され形成されていることを知りました。物理環境そのものが、地球規模の気候から人間生活に至るまで幅広く影響を与えているのです。その時から、「物理」に対して抱いていたイメージとは全く違った見方をするようになり、それに加えて、もともと海や海の生き物が好きだったこともあり、気が付いたら海洋物理の専門を志し今に至ります。物理を専門にしていると数字や式ばかりと向き合っていると思われがちですが、実際に調査航海に出かけたり、生物との関わりを調査したり等多角的な視点から研究を行っています。

沿岸域遠征

―具体的な研究内容を教えてください。

生活に密接に関わる沿岸域の水循環を主なテーマとして研究していて、学生と一緒に船で様々な沿岸域に遠征して、観測をしています。最近は、主に伊豆諸島や霞ヶ浦、岩手県三陸沖など潮汐の流れによって独自の影響を受けやすい場所を対象にして、調査を行っています。

地球規模の大スケールから沿岸域での小スケールにおける物理現象の解明へ

―海洋環境のプロセスを解明することで、どのような発展性が期待できるのでしょうか?

地球を覆っている海水は、月や太陽の引力を受けることで、海面の高さが上がったり下がったりと地球規模の運動をします(潮の干満)。潮汐は波動現象なので、海の中で強い流れを周期的に発生させ、まるで心臓が鼓動するように海全体を振動させます。沿岸域に近いところほど、強い潮流となる傾向にあり、その影響によって泥を巻き上げたり、栄養や生物を輸送したりするため、最終的には漁獲量や生態系などに影響を与えていると考えられます。このように、沿岸域での海洋環境を解明することは、様々な問題の解明につながる可能性があるのです。

学生との沿岸域観測

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海洋観測とモデリングの統合

異分野の研究者との対話が地球規模での問題解決の予測につながる

―異分野の研究者とどのように活動を展開しているのでしょうか?

例えば生態系が専門の先生からは、水の循環が悪化して水質が低下し、それが原因で魚の漁獲量や生態系にどのような変化を与えると考えられるか、ということについてアドバイスを頂いています。地質学が専門の先生とは、水の流れ方で、地形がどのように変化していくのか、そこにさらに気候変動問題が加わるとどうなのか、などについても、お互いにアドバイスし合いながら研究を進めているところです。このように日頃から異分野の研究者と意見交換をすることで、将来、地球規模の環境問題の解決方法などの予測に生かせる可能性があると感じています。

―今後の課題について教えてください。

研究課題の中でも特に海の中での水が混ざる現象(乱流現象)に注目をしています。具体的には、暖かい水と冷たい水とが海の中で混ざり合う際に、例えば潮汐の流れによって混ざり合っているのか、黒潮の流れによって混ざり合っているのか、まだそのプロセスは完全には解明されていないため、今後取り組んで行きたいテーマの一つです。海の水を混合させるプロセスとしてその他に、風、地球自転の効果(近慣性周期内部波など)、海面冷却等が上げられます。
海洋以外にも、特に河川から出た水がどのように海へと合流するのかということについても研究していきたいと考えています。また海と海底の境界部分の,いわゆる境界層現象現象にも着目していきたいと思っています。

海洋調査船の様子

海洋調査の様子

多分野の学問を知る事は考え方を変える良いきっかけとなる

―学生へ向けて一言をお願いします。

学生には、自分の専門以外にも色々な授業を受けてほしいと思います。その中で、これまで持っていた科目や分野のイメージが大きく変わることがあるかもしれません。多くの人が高校までの教養として習ってきた「物理」は、数学が苦手な人からは難しいというイメージが強いと思いますが、実際に研究テーマとなる「物理」はそれとは似ているようで全く異なるような側面もあります。このように高校や教養の授業で身についている良くも悪くもある固定概念を払拭するためにも、色々な分野の授業を受けてみて欲しいと思っています(教養科目の物理や理科の科目はもちろん重要で、これは疎かにしてはいけません。あくまで、教養科目をしっかりと身につけた上での次のステップという意味です。)。
研究室の学生には、何か物事を追求する際に、まずは太陽光や地球の自転など宇宙規模の大きなスケールで事象を捉えてほしいと説明しています。大きなスケールで物事を見ることは、小さなスケールの物事の現象の説明へと繋がっているからです。

私も学生時代、自分の専門以外の授業を幅広く受けるようにしていました。そうすることで、従来とは違った物の考え方ができるようになるきっかけをつかめると思います。「サステイナビリティ学教育プログラム」は色々な専門の先生が、学部横断的に授業をしているので、私も参加してみてとても新鮮だったことを覚えています。そのようにして多分野に触れることで、自分の専門をより多角的に見つめることができるようになると思います。

霞ヶ浦での乱流調査の様子

(内容は2021年3月時点のものです)