取材日 2019/11/11

対象者 Nguyen Van Quang(MCCD専任講師)

日本の個人から組織レベルに至るまでの幅広い適応策から得た教訓

日本でのインターンシップにおいてどのようなことが印象に残っていますか。

Quang)印象に残った経験は、台風19号の災害ボランティア(参考記事)に参加した時のことです。日本では地域の人が数多くボランティアに登録しており、ボランティアセンターが適切かつ効率的に人員配置する仕組み自体に強く感銘を受けました。また、その際に先日発生した台風19号の話を詳しく聞くこともでき、多くの教訓を得ることができました。例えば、災害についての事前警報システム、実際の迅速な避難体制、また災害後の迅速な復旧状況など、日本では災害の起こる前と後に効率的かつ効果的に人々の生活環境を保全するようなシステムが体系化されていることを実感しました。さらに、各関連機関訪問において、日本が持つ地理情報システム(GIS:Geographic Information System)などの高い技術力を使った組織レベルでの適応策から、常総市において国交省下館河川事務所が実施していた「マイタイムライン」、「にげキッド」の個人レベルでの活用に至るまで幅広く感銘を受けました。このような自然災害に対する取り組みを是非ベトナムへ適用したいと思っています。

 

 

 

 

 

水戸市における災害ボランティアとセンターの様子

 

―今回のインターンシップでの経験は今後どのように活用できるとお考えでしょうか。

Quang)最近では、ベトナムの気候変動の研究者たちは異分野の研究者や他機関とも連携しながら、これまでの災害の経験やアイディアを構築し、将来のための適応政策を政府に提案しているところです。ただ、これを具体的な政策などへ反映していくには、まだまだ時間がかかると思います。

ベトナムでの気候変動問題に対する認識はここ数年で一気に高まってきたと感じています。このような大衆的な認識の高まりを反映しながら、国として具体的な気候変動対策を考案していくことは今後の課題です。

今回、私たちはインターンシップにおいて、日本での個人から組織に至るまでの幅広い適応の知恵や体制について、実際に目で見て体感したことで、非常に多くのことを教訓として学びました。今回得た様々な教訓は今後のベトナムにおける気候変動対策における具体的な実践へとつなげていけると信じています。

 

 

 

 

 

 

 

茨城県庁における大井川知事表敬訪問

 

 

対象者 Bui Thi Hoa(MCCDアシスタント)

若い世代に気候変動への認識を高めていきたい

―今回インターンシップでMCCD学生はどのようなことに関心を抱いていましたか。

Hoa)ベトナムにおいて、気候変動に対するリスク認識は以前よりも高まりつつありますが、まだまだ普及している訳ではありません。MCCD学生は皆、気候変動問題に対して関心が高く、ベトナムの問題の現状をよく分かっている学生達の集まりとなっています。彼らが今回特に驚いていたことは、日本では市民にも防災の知恵や教育が普及しており、ベトナムに比べて気候変動に対する意識が高い点です。例えば、関連施設の見学や案内においても、きちんと先方機関の方が責任を持って分かりやすく説明・案内をしてくれるため、見学者としてより身近に気候変動への対策を感じることができました。今後、ベトナムで必要なことは、若い世代に対し、より早い段階で気候変動問題に対する認識や知識の普及啓発にあると考えています。その意味で今回のインターンシップは大変参考になりました。

 

学内のハロウィンパーティ

―茨城大学やICASに対して学生達の反応はどうでしたか。

Hoa)学生達は、今回ICASの先生達と先生の研究室で話すことができることを楽しみにしていました。VJUの講義では、毎回先生方とゆっくり話すという機会をなかなか持てないため、今回の訪問は1:1で先生と話せる貴重な機会でした。

また、茨城大学では特に図書館がとても広く、たくさんの種類の本があることに学生たちは感激していました。気候変動に関する本をたくさん借りてこの機会に勉強したいと言っている学生もいます。最後に、ICASスタッフの皆さん、たくさんのサポートを頂き、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

JICAにて(アオザイ着用)

 

対象者Azu Anthony Anwani (MCCD学生)

まだまだ気候変動への認識が低いアフリカ

これ以上後回しにされないために今何ができるのか

―あなたの専攻について教えてください。

Azu)僕の元々の専攻は哲学でした。母国のナイジェリアで学ぶうちに、個人個人の意識は社会環境に大きく影響されていると気が付きました。特に気候変動問題に関しては、アフリカはアジアのように大きな災害がないため、人々の意識が低い傾向にあります。「適応」や「緩和」と言われても、自分達にはあまり関係ないと思っており、社会全体の関心が向かないのです。ただそうは言っても、アフリカにも沿岸域の一部では、海面上昇による洪水被害に悩まされている場所もあり、その地域の人々は被害を受けています。このことから、自然環境を視野に入れながら社会科学を研究対象とするようになりました。ただアフリカでは「気候変動」専攻という分野はなく、地理学の中の一部としてしか扱われていません。それゆえ、気候変動の修士課程は存在しないのです。これでは多くを学べないと思い、実際に災害被害に遭っているベトナムで開講されているVJUにおいて気候変動を学ぶことを決心したことは僕にとってチャレンジングなことでした。

 

―日本でのインターンシップにおいてどのようなことが印象に残っていますか。

今回、日本でインターンシップを行うことはとてもチャレンジングなことです。日本は、どこに行っても綺麗で、人々は優しく、協力し合っていて、その上技術力が高く、予想通りの素晴らしい国だと感じました。

インターンシップにおいては、特に阿見キャンパスでの圃場見学が印象的でした。アフリカではあのように家畜施設を見学できる機会はあまりないため、家畜を身近に感じることができ、とても新鮮でした。日本では、あのように現場の知識や技術を提供している場が非常に多く、地域の人々に気候変動をはじめ様々な状況を認識してもらえるような機会(practical learning process)が多いと感じています。人は自ら経験したことは忘れないと思うのです。

 

阿見キャンパスにおける圃場案内

 

―将来は気候変動分野において、どのように活躍したいと考えていますか。

Azu) アフリカでは、先述したように気候変動リスクに対する認識はまだまだ低い傾向にあります。貧困や教育、インフラ整備等のその他の問題が多いため、気候変動と聞くと後回し(secondary needs)にされがちなのです。ですがアフリカ全土において、2025年頃には影響被害が随分と増えてくると予想されることから、人々の認識を変えていかなくてはならないと感じています。将来的に国の政府は気候変動に関する法制度や政策を整備する必要もあると感じています。そのために、まずはゴミのポイ捨てをしないなどの個人レベルでの変化が大切だと思います。一人一人のこのような小さな変化がアフリカの将来により良い効果をもたらすと信じています。

農業総合センターにおける県内野菜・果実の説明を受ける様子

 

 

対象者

Do Thi Nhinh (MCCD学生)

教育プログラムにおける恩恵を実感

将来日系企業で働くことも視野に

―今回のインターンシップでどのようなことが印象的でしたか。

Nhinh)私は森林学を専門的に学んでいるため、今回のインターンシップにおいて日本の環境管理状況にとても興味がありました。特に印象に残っている経験は、筑波山を登山した時のこと。辺りを見渡すと、鳥がたくさん飛んでいて、「直物育成中」という看板も見かけられ、全体的に森がきちんと管理されているという印象を受けました。ベトナムは亜熱帯気候のため、木々の葉の大きさも日本に比べて小さい傾向にあります。

また、JICA本部を見学したことで、日越大学での教育プログラムによる恩恵を実感したと同時に、今後もベトナムにおいて教育を普及させていくことの大切さを実感しました。今は、将来的に関彰商事などの日系企業で働いてみることも視野に入れています。

JICA本部におけるインターンシップ生来日記念交流会

―ベトナムの植林事業における今後の課題や展望を教えてください。

現在、ベトナムで大規模に繰り広げられてきた森林破壊からの悪影響をいかに低減、緩和していけるのかについて研究しています。森林破壊の原因としては、大規模な土地開発や木材の過剰な採取などが挙げられますが、これを低減・緩和していくために、アカシアなどの常緑樹を使った植林事業を行う必要に迫られているのです。

ただ、植林を行う際には多くの原生林を伐採する必要があります。そのため、生命の生息環境のバランスは崩れるなど、その土地の持つストレス耐性が低くなる傾向にあります。

もともとベトナムは台風や嵐による気候変動からの影響被害を最も受けやすい国であると言えます。植林によって弱くなった土地にこのような災害が発生すると、せっかく植えた樹木が一斉に倒れてしまい、ますます影響被害が広がるといったことも予想されます。

とはいえ、もちろん植林事業にはメリットがあります。影響評価を十分に配慮した土地では持続性のある森林が確保できます。また、例えば農地だったところに植林を行うことで、農業とは違った需要が産まれ、新たな雇用創出(co-benefit)につながる可能性があります。ベトナム北部のソンコイ川(紅河)とメコンデルタは大規模な米産地なので、多くの人々に関わっています。今後は二次産業をより上手に活用していくことが求められてきます。

北先生(MCCDプログラム総括)より修了証明書の授与

【編集後記】インターンシップを終えて:学生たちが皆口を揃えて言っていたことは、日本は高い技術力を持ち、気候変動問題に対して体系的に動けるきちんとした仕組みがあるということだ。またゴミ一つ落ちていないのも幼少期からの教育がきちんと普及しているからなのではという声もあった。では逆に、日本がベトナムから学ぶべき教訓は何か。ベトナムにも日本にない知恵や技能、過去の経験が多数あるはずであり、それを互いに共有し、知恵を出し合っていくことは今後ますます不可欠なのではないかと思われた。今回、学生達の気候変動問題に対する認識の深さを実感したことで、改めて日本でも若い世代を中心により一層の認識の共有が必要だと感じた。また、学生達は自主的に水戸の街を歩き、街の持つ空気感や風景に感銘を受けたようだった。日本の良さに改めてこちらが気づかされるきっかけともなった。