ICAS (アイ・キャス)とは Institute for global Change Adaptation Science (=地球変動適応科学研究機関)の略称です。


現代社会は、環境、エネルギー、水、食料、人口問題など、地球規模に拡大し複雑に絡み合う諸問題に直面しています。地球社会を持続可能なものへと導くために、経済システムや生産・消費活動のあり方、環境負荷の少ない革新的な技術の開発、国や地方の政策、さらには一人一人のライフスタイルまで大きな転換が必要とされます。
この転換を推進する新しい学問分野構築のためには個々の大学や研究機関による単独の取組だけでは不十分であり、あらゆるレベルでの協働が不可欠です。こうした背景から、2005年に文部科学省科学技術振興調整費プロジェクトとして「サステイナビリティ学連携研究機構(Integrated Research System for Sustainability Science: IR3S)」が開始しました。茨城大学はIR3Sの参加機関の一員として、2006年5月に「地球変動適応科学研究機関(Institute for Global Change Adaptation Science: ICAS)」 を設立し、21世紀に人類が直面するこれらの問題に取り組み、サステイナビリティの確保と安全で豊かな社会を構築するビジョンの提示を試みています。その後、IR3Sは2010年8月に設立された一般社団法人「サステイナビリティ・サイエンス・コンソーシアム(Sustainability Science Consortium: SSC)」に事業を継承しています。

茨城大学ICASは、大きな人口増加と経済の成長が見込まれる一方、気候変動や自然災害の厳しい影響を受けるアジア・太平洋地域を対象にして、適応策の検討やサステイナビリティ学の研究と教育を進めています。気候変動によってアジア・太平洋地域は甚大な影響を受けると想定されるため、防災、社会の安全確保、食料生産、生活圏計画等の分野における適応策は、サステイナビリティ学の主要な課題の一つだからです。これらはまさに学際的な領域であり、人文社会科学部、教育学部、理学部、工学部、農学部、広域水圏環境科学教育研究センター等からなる茨城大学全ての学部と学内の研究センターの教員がICASに参加しています。

具体的には、気候変動の影響予測に基づく適応技術・政策・ビジョンの提示と適応策を担うことを目的に、①アジア・太平洋地域の問題解決を目指す研究プログラム、②国際的人材を育成する大学院サステイナビリティ学教育プログラム、③アジア・太平洋地域の各国機関と協力してケーススタディに取り組む国際プログラム、の3つの主要プログラムを実施しています。

ICASの最大の特徴は、研究、教育の両面で学際的かつ超学際的な実践を行っていることです。サステイナビリティに関する課題は個別の専門志向型(discipline-oriented)だけでは十分に対応できません。専門性を超えた課題志向型(problem-oriented)の研究が必要になります。3つの研究部門が有機的に連携して課題解決に取り組んでいます。これまでにベトナム、インドネシア、ツバルなどのアジア太平洋地域の気候変動影響とその適応策、あるいは省エネルギー、再生可能エネルギー等の緩和策に関して専門性の異なる研究者が混成チームを組んで研究を推進してきました。これまでに「サステイナビリティ学をつくる」(2008年、新曜社)、「茨城大学発:持続可能な世界へ」(2010年、茨城新聞社)、「ポスト震災社会のサステイナビリティ学」(2014年、国際文献社)などの書籍に成果の一端をまとめています。

教育面も上記の理念を体現しています。例えば、2009年より開始した大学院サステイナビリティ学教育プログラムの国内実践教育演習、国際実践教育演習では茨城県の市町村(大洗町、行方市、茨城町、常総市等)あるいはタイのプーケット等をフィールドに地域PBL(problem-based learning)を行ってきました。

2011年に発生した東日本大震災以降、研究者間の学際性(interdisciplinary)を超えて地域の自治体、住民と協働して超学際性(transdisciplinary)を志向する研究や実践が重視されるようになっています。震災発生当初に情報の少なかった茨城県の被災状況をまとめた「茨城大学東日本大震災調査団」やその後の茨城大学復興支援プロジェクトにもICASは大きく関わってきました。2015年に発生した平成27年9月関東・東北豪雨でも常総市等での調査団を結成して調査を行いました。常総市とは2016年度から小中学校への防災教育、2018年度からの国内実践教育演習でも連携しています。

2018年9月にはベトナムのハノイにて開講した日越大学気候変動・開発プログラムの幹事校として、ベトナムでの研究、教育にも深く関わっています。さらに国内では2018年12月の気候変動適応法の成立に伴い、2019年4月に茨城県地域気候変動適応センターの業務を担当することになりました。

このように、ICASは持続可能な社会の構築に向けて科学的な知見の集積と提供、地域の人々との協働を続けていきます。今後もご支援とご協力をよろしくお願い申し上げます。

2019年4月
茨城大学地球変動適応科学研究機関 副機関長・准教授
田村 誠

<沿革>

2005
  • 11月:振興調整費によるIR3Sへ参加
2006
2007
2008
2009
2010
2011
  • 3月:東日本大震災の調査・復興支援
  • 8月:「茨城大学東日本大震災調査報告書」発行
2012
2013
2014
2015
2016
2017
2018
2019